外国人材の受け入れで最初に立ちはだかるのは「言葉」です。ただし、実際につまずくのは面談や契約の場面ではありません。多くの場合、日々のなんでもない連絡のほうです。
はじめに
受入企業の方からいただく相談で多いのが、「重要な話は通訳を入れているので問題ない。困るのは日常のやりとりだ」という声です。
面談や指導、契約の説明といった場面には、あらかじめ通訳を手配できます。しかし「明日は8時集合です」「保険証を持ってきてください」「今日は雨なので作業を変更します」といった連絡は、その場で伝えなければ意味がありません。通訳の予定を押さえている余裕はありません。
結果として、こうした連絡は日本語のまま送られます。受け取った側は翻訳アプリに貼り付けて読むか、読まずに済ませるか、あるいは読んだつもりで別の意味に受け取ります。三つ目がいちばん厄介です。
本稿の論点
- なぜ「日常の連絡」でつまずくのか
- LINEグループそのものに翻訳を組み込むという解き方
- 機械翻訳が苦手な領域と、その扱い方
現場で見えてきた事実
ひとつめは、通訳を挟むべき場面と、挟めない場面はまったく別物だということです。前者は制度上も必要ですし、専門的な通訳者でなければ務まりません。後者は量が多く、緊急で、一件あたりの重要度は低い。同じ手段では解決できません。
ふたつめは、実習生の多くはすでにLINEを日常的に使っているということです。新しいアプリを導入すると、使う人と使わない人が分かれます。連絡手段が分かれた時点で、伝達は必ず漏れます。すでに開いているものの中で完結させることが、定着の条件です。
みっつめは、冒頭に書いたとおり、「読めなかった」より「読んだつもりで違って伝わった」ほうが事故につながるということです。読めなければ聞き返してもらえます。誤解したまま行動されると、気づくのは当日の朝になります。
当組合が始めたこと
こうした前提を踏まえ、当組合ではLINEグループに直接組み込む自動翻訳の仕組みを自社で構築し、2026年9月より運用を開始しました。
- ベトナム語・ミャンマー語・インドネシア語の3言語に対応しています
- 日本語で書き込めば母国語の訳が、母国語で書き込めば日本語の訳が、同じトークに続けて表示されます
- 実習生の側に特別な操作は必要ありません。いつものLINEにそのまま書くだけです
- グループごとに1言語に固定しています。複数言語を混在させると返信が長くなり、かえって読まれなくなるためです
機械翻訳が苦手なところ
一方で、機械翻訳に任せきりにはできない領域があります。
とくに制度用語です。「在留期間更新」「技能検定」「特定技能1号」「監理団体」といった言葉は、一般的な翻訳エンジンでは字面どおりに訳され、元の意味から離れてしまうことがあります。制度の説明を機械翻訳だけで完結させるべきではありません。
そのため当組合では、翻訳したやりとりをすべて記録に残し、誤訳が見つかった場合はその場で印を付けて蓄積する運用にしています。どの用語がどう間違って訳されるのかを実データで洗い出し、順次補正していく設計です。
また、日付・時刻・金額・数量については翻訳結果だけで完結させず、口頭または書面での確認を併用することを社内ルールとしています。あわせて、在留カード番号や口座番号といった機微な情報は、翻訳の対象となるトークには書き込まない運用としています。
まとめ
言葉の壁が一度に消えることはありません。通訳が必要な場面は今後も残りますし、制度の説明を機械に委ねるつもりもありません。
それでも、日々の細かな連絡がその場で伝わるようになるだけで、現場の負担は確実に軽くなります。「言った」「聞いていない」が減り、確認のための電話が減り、朝の段取りが崩れにくくなります。
当組合は監理団体として、制度上の手続きだけでなく、受け入れた後の日々のコミュニケーションまでを支援の範囲と考えています。