
2026年9月、S社の採用担当者と現場責任者のお二人が、インドネシアへ飛びました。目的は、内定を出した2名のご家族に直接会うことです。
これはS社の社長のご意向によるものです。書類とオンライン面接で採用が完結する時代に、あえて社員を現地まで送り、ご家族に挨拶させる。そのお考えに、同行した私たちも頭が下がる思いでした。この記事は、その2日間の記録です。
なぜ、ご家族に会いに行くのか
海外から人を迎えるとき、本人の決意と同じくらい大切なのが、送り出すご家族が納得しているかどうかです。
ご家族にとって、日本の会社は名前しか知らない存在です。どんな人が働いていて、息子がどんな仕事をするのか。その不安は、書類やオンラインの説明だけではなかなか消えません。内定から入国までの数か月のあいだに気持ちが揺れるのは、たいてい本人よりもご家族のほうです。
だからこそ、会社の人が自分の足で来て、顔を見せて話す。それがいちばんの安心材料になります。
9月18日 中部ジャワ・クラテン アルフさんのご家族
朝は、内定者のアルフさんがプランバナン寺院を案内してくれました。世界遺産のヒンドゥー寺院群です。ところが、家からバイクで20分の距離なのに、アルフさん自身も来たのは初めてだったそうです。案内役と一緒に観光客になった、和やかな朝でした。


ご家族とは、アルフさんの家の近くのレストランでお会いしました。アルフさんは3人兄弟の長男で、弟さんは12歳と7歳。この日は7歳の弟さんも来てくれました。
弟さんはとてもシャイで、ほとんど話してはくれませんでした。それでも日本人が珍しいのか、ずっとこちらを見ていて、帰り際にはお別れのタッチをしてくれました。お土産の抹茶のキットカットも、とても喜んでもらえました。
お父さまは、お渡しした説明資料を一枚ずつ丁寧に読み、こちらの話に最後まで耳を傾けてくださいました。お母さまは一歩引いて、お父さまに任せる姿勢です。どこか昭和の日本の家庭を思わせる、落ち着いた雰囲気でした。
一通りの説明を終えたとき、お父さまからこう言っていただきました。
「信じていますので、
息子のことをよろしくお願いします」
── アルフさんのお父さま
アルフさんは今、家の手伝いをしています。「日本で働いて、家族を支えたい」。そう話す顔つきは、もう一家の大黒柱でした。
日本語も上手で、ご家族への説明はアルフさんが自分で通訳してくれました。富士協同組合でもオンライン通訳を手配していましたが、ほとんど出番がなかったほどです。その姿を見て、S社のお二人も安心された様子でした。
9月19日 ジャカルタ アンガさんのご家族
もう一人の内定者、アンガさんのご家族は、スマトラ島のランプン州に住んでいます。ご両親はランプンから飛行機でジャカルタまで来てくださいました。往復の航空券代はS社が負担しています。

アルフさんのご家族とは対照的に、アンガさんのお母さまはずっとにこにこされていました。言葉が通じなくても、気持ちがそのまま伝わってきます。日本から会いに来たことを、心から喜んでくださいました。お父さまは静かに、説明資料を細かく確認されていました。
アンガさんは普段ランプンで暮らしていて、ジャカルタには詳しくありません。そこで、ジャカルタで働いている妹さんも同席してくれました。聞けば、妹さんは北海道で1年間、技能実習をしていたそうです。日本語で話しかけられて、こちらが驚きました。
S社からお土産を渡すと、今度は「こちらからもお返しをしたい」と、アンガさんがショッピングモールまで出かけて、地元のお土産を用意してくれました。
アンガさんは、仕事で未経験の部分が多いことに不安を感じていたようです。S社のお二人から「一つずつ、きちんと教えます」と伝えると、ほっとした表情を見せてくれました。

送出機関と、祈りの場所
ご家族との面談の合間には、送出機関も訪ねました。教室では訓練生が整列して出迎えてくれ、寮の中も見せてもらいました。入国前の数か月、彼らがどこで寝起きし、どんなふうに日本語と日本の職場の決まりを学んでいるのか。それを自分の目で確かめることができました。


ソロではモスクも見学しました。インドネシアの人々にとって、1日の中の祈りの時間は生活そのものです。日本の職場で彼らを迎えるとき、この光景を知っているかどうかで、接し方は変わるはずです。

百聞は一見にしかず
同行したS社のお二人は、一人は初めての海外、もう一人は30年ぶりの海外でした。街並みや人々の暮らしぶりを見て、とても感銘を受けていらっしゃいました。
どんな家で育ち、どんな家族に送り出されて日本へ来るのか。現地で見た生活の様子と、ご家族と交わした言葉は、書類では得られない確かな信頼に変わりました。この2日間が、入社後に一緒に働くうえでの大きな土台になったことは間違いありません。
受け入れる職場の皆さんへ
今回の訪問から見えたことを、受け入れる職場の皆さんに向けて4つにまとめます。社内研修の資料としてもお使いください。
- 家族を背負って来ているアルフさんのように、弟たちや両親を支えるために日本で働く人がいます。仕事への真剣さの向こうには、送り出したご家族がいます。
- ご家族は、あなたの職場を知らないご家族が息子の様子を知る手がかりは、本人からの連絡だけです。職場でかけた一言や、仕事を覚えたときの「よくできたね」が、そのまま海の向こうの安心につながります。
- 祈りの時間は、生活の一部1日の中に礼拝の時間があります。特別扱いではなく、生活の一部として理解しておくと、職場のルールづくりもスムーズになります。
- 未経験の不安は、教え方で消える内定者が口にしたのは「仕事ができるか不安」という言葉でした。一つずつ手順を見せて教える。それだけで、安心して力を発揮できるようになります。
まとめ
「信じていますので、息子のことをよろしくお願いします」。この言葉を受け取った以上、入社後の毎日で応えていくのが、受け入れる側の仕事です。
富士協同組合は、現地での面接や送出機関の訪問、ご家族への説明への同行から、入国後の生活支援まで伴走します。当組合は監理団体(許可番号 許1904000061)、登録支援機関(20登-005125)、有料職業紹介事業者(11-ユ-301303)として、技能実習と特定技能の双方をお手伝いしています。
富士協同組合 理事 長澤